根管治療を始める前に、まずレントゲン撮影と診察によって根管の形状・感染の範囲・周囲の骨の状態を確認します。根管は1本の歯に1〜4本存在し、その形状は人によって大きく異なります。治療の難度や回数の目安はこの診査結果をもとに決まります。
根管治療
根管治療が必要になる理由
歯の内部で何が起きているのか
歯の内部には「歯髄(しずい)」と呼ばれる組織があります。歯髄は神経・血管・リンパ管などで構成されており、歯に栄養を届けたり、外部刺激を感知したりする役割を担っています。
虫歯が進行してC3の段階に達すると、細菌がエナメル質・象牙質を越えてこの歯髄にまで到達し、炎症や感染を引き起こします。
感染した歯髄をそのまま放置すると、炎症は根の先端(根尖)を越えて周囲の骨にまで波及します。この状態を「根尖性歯周炎(こんせんせいししゅうえん)」といい、顎の骨が溶けたり、膿の袋(嚢胞)が形成されたりすることがあります。
根管治療は、こうした感染を根の内部から取り除き、炎症の拡大を止めるための処置です。歯を抜かずに残すうえで、根管治療は欠かせない選択肢となります。
根管治療の成功率
根管治療には「初回治療」と「再根管治療(一度根管治療を行った歯への再処置)」があります。初回の根管治療と比べて、再根管治療の成功率はおよそ50%〜80%程度に下がると言われています。
これは、すでに根管内に充填材が詰まっている状態での処置となるため難度が上がること、また感染が複雑な経路で広がっている可能性があることが主な要因です。
根管治療の回数を重ねるほど治療の難度と不確実性は増し、最終的に歯を失うリスクも高まります。だからこそ、そもそも根管治療が必要な状態にまで虫歯を進行させないこと——つまり日々の予防と定期検診を継続することが、歯を長く守るうえで最も重要な選択になります。
根管治療の流れ
診断から根管充填まで
診査・診断:レントゲンと症状から
治療計画を立てる

歯髄の除去と根管の清掃・消毒
麻酔を行った後、歯の上部に穴を開けて感染した歯髄を除去します。続いて「ニッケルチタンファイル」と呼ばれる細い器具を使い、根管の内壁を削りながら形を整え(根管形成)、薬液で洗浄・消毒します(根管洗浄)。
ファイルには従来のステンレス製と、ニッケルチタン合金製の2種類があります。ステンレス製は硬い素材のため、湾曲した根管に沿わせようとすると根管の形状を変形させてしまうリスクがあります。
一方、ニッケルチタン合金は柔軟性が高く、複雑に湾曲した根管の形状に追従しながら清掃できるため、根管の壁を均一に削れて穿孔(根管壁に穴が開いてしまうこと)などのリスクを低減できます。
根管内を清潔な状態にしてから、次回の来院まで根管内に消毒薬を入れて仮封します。感染の程度によっては、この消毒・仮封のステップを複数回繰り返す必要があります。

再感染リスク低減のための
ラバーダムの使用
また、当院では必要に応じてラバーダムを使用しています。ラバーダムとは、治療する歯だけを口腔内から隔離するために使用するゴム製のシートのことです。これを装着することで、治療中に唾液や口腔内の細菌が根管内に入り込むことを防ぎ、再感染のリスクを低減することができます。

根管充填:根管を密封して再感染を
防ぐ
根管内の感染が十分に取り除かれたことを確認したら、「根管充填(こんかんじゅうてん)」を行います。根管充填とは、清潔になった根管の内部を「ガッタパーチャ」と呼ばれるゴム状の材料と専用のシーラー(封鎖材)で隙間なく密封する処置です。
充填が不完全だと、根管内に残った細菌が再び増殖して再感染につながるため、この工程の精度が治療の長期的な予後を左右します。

補綴処置:クラウンで歯を保護する
根管治療を終えた歯は、神経・血管が除去されているため歯質が脆くなり、割れやすい状態にあります。そのため、根管充填後は土台(コア)を立てたうえでクラウン(被せもの)を装着し、歯を保護します。補綴処置まで完了して初めて、根管治療は完結します。

根管治療の難しさと、
困難なケースへの対応
根管が複雑な形状をしている理由
根管治療が複数回の通院を要する理由のひとつは、根管の構造の複雑さにあります。
根管は直径0.2〜1.0mm程度の非常に細い管で、湾曲していたり、途中で枝分かれしていたりするケースも珍しくありません。このような複雑な形状の根管では、器具が届きにくい部分に細菌が残存しやすく、徹底した清掃・消毒が難しくなります。
また、過去に根管治療を受けた歯を再治療する場合は、以前に充填された材料を除去する必要があるため、さらに難度が上がります。
難症例は根管治療専門医と
連携して対応
通常の根管治療は当院で対応しておりますが、根管の形態が非常に複雑なケースや再治療のケースなど、高度な専門技術を要する難症例については、根管治療の専門医が在籍する提携医院と連携して対応しています。
患者様の状態に応じて最善の医療を提供できる体制を整えていますので、難しいケースであっても安心してご相談ください。

根管治療後に気をつけること
再感染を防ぐための口腔管理
根管治療が成功しても、口腔内の衛生管理が不十分であれば再感染が起こるリスクがあります。特に、クラウンと歯の境界部分や隣接する歯との間は汚れが溜まりやすく、そこから細菌が侵入することで根管内が再び感染することがあります。
治療後の定期検診が予後を左右する
根管充填後の歯は、定期的なレントゲン撮影と診察によって根尖部の状態を確認することが推奨されます。
自覚症状がない段階でも、根尖周囲の骨に炎症が再発していることがあるため、定期検診を通じた経過観察が重要です。また、クラウンの適合状態の確認や、周囲の歯茎・歯周組織の管理も並行して行います。
根管治療を受けた歯を
長持ちさせるために
根管治療後の歯を長く機能させるには、日常のブラッシングと歯科医院での定期的なメインテナンスを継続することが基本です。
特に、歯と被せものの境界部分はブラッシングが届きにくいため、歯科衛生士による専門的なケアを組み合わせることが再感染予防に有効です。
当院では目の前の治療にとどまらず、治療後の長期的な口腔の健康を見据えた「長期予防型治療」を基本姿勢としています。
よくあるご質問
Q.根管治療は何回くらい
かかりますか?
感染の程度や根管の形状によって異なります。比較的シンプルな症例では3〜4回程度で完了することもありますが、感染が広範囲に及んでいる場合や根管の形態が複雑な場合は、それ以上かかることもあります。初診時の診査・診断をもとに、担当医から治療回数の目安をご説明します。
Q. 一度根管治療を受けた歯が再び
痛むのはなぜですか?
根管内の感染が完全に取り除かれなかった場合や、充填後にクラウンの隙間から細菌が再侵入した場合に、再感染が起こることがあります。これを「根管治療の再発」といい、再治療(感染根管治療)が必要になります。
再治療は初回よりも難度が上がるケースが多いため、初回治療の精度と治療後の定期管理が重要です。
Q. 根管治療をせずに抜歯した方が
早く終わりますか?
根管治療をして歯を残すか、抜歯してインプラントなどで補うかは、一概にどちらが正解とは言えません。歯根の状態・周囲の骨の量・咬み合わせのバランス・患者様のご希望など、さまざまな条件によって最善の治療プランは異なります。
ただし、判断の前提として知っておいていただきたいのは、天然の歯は一度失うと元には戻らないという点です。
抜歯そのものは短時間で終わりますが、その後に入れ歯・ブリッジ・インプラントなどで失った歯の機能を補う処置が必要になり、費用・時間・身体への負担が別途生じます。根管治療によって歯を保存できる見込みがあるケースでは、まず保存を検討することが基本的な考え方です。
一方で、歯根の状態が著しく悪化しており保存が困難と判断される場合は、抜歯のうえでインプラント治療を選択する方が長期的に安定した結果につながることもあります。いずれの方向でも、治療プランのゴールを担当医と共有したうえで方針を決定することが重要です。
Q. 根管治療中に痛みがなくなったら
通院をやめてもよいですか?
やめないでください。痛みが消えるのは炎症が落ち着いてきたサインである場合もありますが、根管内の感染が完全に除去されたことを意味するわけではありません。
根管充填・補綴処置まで完了しなければ、根管内に細菌が残存したままとなり、再感染や骨への炎症波及につながるリスクがあります。症状の改善を感じても、必ず担当医の指示に従って通院を継続してください。

